サッカー選手「ぐわあぁぁ!!!」ゴロゴロ 就活生「大丈夫ですか!?」
就活生「――なんだ?」
サッカー選手「ぐわあああああああ!!!」ゴロゴロ
サッカー選手「痛い、痛いよぉぉぉぉぉ!!!」ゴロゴロ
サッカー選手「足が、足がぁぁぁぁぁ!!!」ゴロゴロ
サッカー選手「折れてる、絶対折れてるぅぅぅぅぅ!」ゴロゴロ
就活生「だ、大丈夫ですか!?」
就活生「しっかりして下さい!」
サッカー選手「ん、ああ私は大丈夫だ。まったくの無傷だ」ヒョコッ
就活生「……へ? あんなに痛がってたのに……」
サッカー選手「私はサッカーの練習をしてただけだからね」
就活生「今のがサッカーの練習?」
サッカー選手「しかし、私を助けようとしてくれたことには感謝する」
サッカー選手「よかったら、お礼にコーヒーでもご馳走させてくれないか」
就活生「それじゃ、お言葉に甘えて……」
喫茶店――
就活生「どうして痛がって転げ回るのが、サッカーの練習なんですか?」
サッカー選手「もちろん、ファウルをもらうためさ」
就活生「ファウルを?」
サッカー選手「サッカーでは、大げさに痛がって転げ回れば、相手選手にファウルを与えられる」
サッカー選手「しかも、こっちはフリーキックをもらえる」
サッカー選手「敵にはペナルティを与え、こっちはチャンスを得られる。まさに一石二鳥の戦術なんだよ」
就活生「……なんだかずるい気もしますね」
サッカー選手「ずるさがなければ、とても世界とは戦えないからね」
サッカー選手「そういう君は? スーツこそ着てるが、サラリーマンではないようだが……」
就活生「僕は大学4年生で、就活の真っ最中なんです」
サッカー選手「ほう、就活。調子はどうだい?」
就活生「全然ダメですね。祈られてばかりです」
サッカー選手「祈られる? 素晴らしいじゃないか!」
サッカー選手「海外の選手は、試合中によく神様に祈ったりするしね!」
就活生「いやいやいや! 祈られるってのは就活用語で“不採用通知をもらう”って意味なんです!」
就活生「今日だけでお祈りメールが三通も来て……」
サッカー選手「すごいじゃないか! ハットトリックだ!」
就活生「すごくないですよ!」
就活生「本当に……どうすればいいのか……」
就活生「このままじゃ、内定をもらえないまま卒業式を迎えてしまう……」
サッカー選手「……」
サッカー選手「……いいだろう」
就活生「へ?」
サッカー選手「こうして出会ったのもなにかの縁」
サッカー選手「この私が、君の就職活動を支援してあげよう!」
就活生「ホントですか!? ……ありがとうございます!」
サッカー選手「そうと決まれば練習あるのみ。さっそく練習試合を始めよう」
就活生「お願いします!」
サッカー選手「まず……自己PRをしてもらおうか」
就活生「はい、私は――……」
就活生「……――いかがでしょう?」
サッカー選手「うーん……」
サッカー選手「君の面接は……アピールが足りないな」
就活生「アピール?」
サッカー選手「サッカー選手が大成するには、いかに自分をアピールするかが重要なファクターとなる」
サッカー選手「怪我をアピールしてファウルをもぎ取ったり、ファンにアピールして人気を得たり」
サッカー選手「監督にアピールしてレギュラーを勝ち取ったり、という具合にね」
サッカー選手「君の面接にはそれが全くないんだよ。ただ喋ってるだけだ」
就活生「あ……」
サッカー選手「それともう一つ」
就活生「は、はい」
サッカー選手「君からは内定を取ろうという意志が感じられない」
サッカー選手「たとえば、私がフィールドで転げ回るのは、“勝ちたい”からやるわけだが」
サッカー選手「君の話しぶりからは“内定を取りたい”という情熱が伝わってこない」
サッカー選手「これでは君がいくら優秀な大学生だとしても、面接官を唸らせることは不可能だ」
サッカー選手「そう……ただいいプレイをするだけでは、試合で勝つことはできない」
サッカー選手「試合で勝つには、“勝ちたい”という情熱・執念が必要不可欠なのだ!」
就活生「な、なるほど……」
就活生「確かにそうかもしれません」
就活生「僕は、面接なんて模範的な受け答えをしてれば、いずれは受かるだろう、と軽く考えていました」
就活生「ペーパーテストじゃあるまいし、そんな心根じゃ受かるわけないですよね……」
就活生「とはいえ、今からそんな情熱を身につけることができるのか……」
サッカー選手「心配はいらない」
サッカー選手「私がこれからみっちりと君をマンツーマンで指導してあげよう」
サッカー選手「そうすれば、就職というワールドカップ出場も夢ではない!」
就活生「ぜひ、お願いします!」
サッカー選手「では今から私のことは“監督”と呼びたまえ」
就活生「はいっ、監督!」
――
――――
サッカー選手「よく頑張った」
サッカー選手「これで私が教えられることは全て伝えた」
サッカー選手「あとは君が内定を勝ち取るだけだ!」
就活生「はい、必ずワールドカップに出場してみせます!」
就活生(よし……まずは説明会からだ。説明会から試合は始まっている!)
説明会――
社員「えー……ただいまより説明会を開催いたします」
社員「……!」
就活生「……」ジーッ
社員(うおお……最前列のこの学生、メッチャこっちを見てくる! なんて威圧感だ!)
就活生(いい席を確保して、説明会全体を支配する……!)
就活生(これが僕のポゼッション就活だっ……!)
就活生「監督、いかがでしたか?」
サッカー選手「うむ、いいポゼッションだった」
サッカー選手「あれならば、会社側も君のことを覚えたことだろう。勝ち点3間違いなしだ」
サッカー選手「だが、まだ予選は始まったばかり。気を抜いてはいけないぞ!」
就活生「はいっ!」
集団面接――
面接官「集団面接はこちらが質問をして、意見のまとまった方から挙手をする、という形で行います」
就活生(監督からのアドバイス……“集団面接は速攻あるのみ”!)
就活生「はいっ!」シュビッ
面接官「!?」
就活生「はいっ! はいっ! はいっ!」シュビッシュビッシュビッ
面接官「まだ質問すらしてないのに……なんて速攻だっ!」
就活生「監督のアドバイスのおかげで、集団面接を突破できました!」
サッカー選手「よくやった、前半で大量得点したおかげで逃げ切ることができたな」
就活生「ええ、後半は息切れしてしまって……課題が残る面接になりました」
サッカー選手「サッカーも面接も恐ろしいのは、一瞬の油断が命取りになるというところだ」
サッカー選手「ホイッスルが鳴るその瞬間まで、集中を切らしてはならん。いいな!」
就活生「肝に銘じます!」
>>26
ワロタ
グループディスカッション――
社員「与えられたテーマにそって、グループ内で自由に討論して下さい」
就活生(学生四人でのグループディスカッション……)
就活生(まずはチームにパスを回して、時間を稼ごう。冷静にゲームメイクしていくんだ)
就活生「Aさんはどう思いますか?」
就活生「Bさんの意見は?」
就活生「Cさんはどのようにお考えですか?」
就活生(中盤に差し掛かった……ここだ、ここが勝負どころ!)
就活生(ここで自分を存分にアピールする!)
就活生「マイボ(意見を言わせろ)!」
学生A「!」
就活生「マイボ! マイボ! マイボ!」
学生B「す、すごい!」
就活生「マイボ! マイボ! マイボ! マイボ! マイボ! マイボ! マイボ! マイボ!」
学生C「なんて積極性だ! これが海外レベルかっ……!」
学生A「じゃあ……意見をどうぞ」
就活生(ボールが浮いた! これはチャンスボール!)
就活生「結論に向かって、シュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
学生A「き、決まった!」
学生B「入ったぁーっ!」
学生C「ゴール! ゴール! ゴール! ゴール! ゴール! ゴォォォォォォォォォォォルッ!!!」
就活生「や、やった……! 合格通知だ!」
就活生「次はいよいよ個人面接……実質的な最終面接だ」
サッカー選手「ワールドカップ最終予選、というわけだな」
就活生「ここまで残った学生はみんなFIFAランキング上位の強豪でしょうし」
就活生「面接官も一筋縄ではいかないでしょう」
就活生「しかし、必ずや監督に僕がサッカー選手になったところを見せてみせます!」
サッカー選手「うむ、期待しているぞ!」
個人面接――
就活生「失礼いたします(キックオフ)」ガチャッ
面接官「どうぞおかけ下さい」
就活生「はい」スチャッ
面接官「まずは弊社の志望動機をお聞かせ下さい」
就活生(落ち着いて、質問をトラップして――打ち返す!)
就活生「私が御社を志望した理由は――」
面接官「それでは一分以内に自己PRをお願いします」
面接官「一分が経過したらベルを鳴らしますので、その場合すみやかに話を終わらせて下さい」
就活生「分かりました」
就活生「私は――……」
……
面接官「はい、一分です」チーン
就活生(しまった! まだろくにPRできてないのに、一分経ってしまった! どうしよう!?)
サッカー選手「いや、まだだ!」
就活生「監督ッ!」
面接官「誰!?」
サッカー選手「まだ自己PR時間は終わっていない!」
面接官「終わってないって、もう一分経過しましたよ?」
サッカー選手「いや……まだアディショナルタイムが残っている……!」
就活生「その手があったか!」
面接官「くっ……アディショナルタイムを認めましょう!」
就活生(よし、これで首の皮一枚つながった……ありがとう、監督!)
面接官「続いての質問ですが……」
就活生「はい」
面接官「あなたのお父さんはどんな職業を?」
就活生(なんだ、この質問……こんなプライバシーに関わる質問に答えなきゃいけないのか)
ピピーッ
サッカー選手「オフサイッ!」
面接官「しまった……突っ込んだ質問をしすぎたか!」
面接官「……今のがあなたのやりたいこと、ですか」
就活生「はいっ!」
面接官「しかし、それならば、別にうちの会社でなくともよいのでは?」
就活生「ぐっ……!」
就活生(来た……圧迫面接(ゾーンプレス)!)
サッカー選手(ここは耐えろ……耐え抜くんだ! フォーメーションを整え、我慢の時だ!)
就活生「えぇと……その……」
面接官「これくらいの質問にも答えられないのですか」
面接官「いささか準備不足なのでは?」
就活生「ぐっ……!」
ピピーッ
サッカー選手「イエローカード!」サッ
面接官「しまった……言いすぎた!」
サッカー選手「就活生にペナルティキックを与える!」
サッカー選手「次は君から質問しなさい」
就活生「分かりました!」
面接官「ええ……!?」
就活生「では質問します」
就活生「あなたって学生に偉そうに面接できるほど、素晴らしい人生を送ってるんですか?」
面接官「ぐはぁぁぁぁぁ!!!」
サッカー選手「見事なPKだ……!」
学生C「ゴール! ゴール! ゴール! ゴール! ゴール! ゴォォォォォォォォォォォルッ!!!」
面接官「で、では……退室して下さい……」
就活生「ありがとうございました!」
ピッピッピーッ
サッカー選手「試合終了!!!」
数日後――
サッカー選手「面接の結果が届いたようだな。どうだった?」
就活生「ご覧の通りです」
『今後のご活躍・ご健勝をお祈りしております』
就活生「祈られちゃいました」
サッカー選手「あと少しだったのに、残念だったな」
就活生「日本だってドーハの悲劇を乗り越えてきたんです。これからですよ!」
サッカー選手「たくましくなったな。では、最後に一つ質問をしよう」
サッカー選手「敗因はどのようにお考えですか?」
就活生「そうですね……自分の面接ができなかったことですかね」
サッカー選手「見事! 君はもう立派なサッカー選手だ!」
― 完 ―
いい試合だった
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